5月18日(月)、6月1日(月)塚本 【レビュー】中嶋香緒里(2003)「書き分け課題における学習者の相手意識と言語的調整」

2015年07月03日 23:21

 更新が遅くなり、申し訳ありません。5月18日、6月1日の発表のレビューです。


 昨年から敬語に興味を抱き、自分なりに関連する論文や文献などを読んでいく中で、中嶋(2003)と出会いました。論文は、中学生、高校生を対象に「国際交流会の招待状」を、①同年代の日本人、②同年代の外国人留学生、③他校の教師、の三種類の相手に向けて書く、という課題を行ない、それぞれの書き分けの特徴を見ていくというものでした。私が最初に敬語に興味を抱いたのも、相手の年齢や親密度、状況等によって、使用する敬語にはどのような変化が見られるのか、という疑問からであり、この論文はその疑問の答えに迫れるのではないかと考え、今回の発表で中嶋(2003)を扱うことにしました。


 論文では、招待状を渡す相手に応じて、文の長さを変化させたり、使用する語彙が異なったり、イラストや記号を使用したりするなどの、「表現形式上の言語的調整」と、情報を追加・省略したり、情報の配列を入れ替えたりするなどの「内容構成上の言語的調整」の、二つの観点から書き分けを分析していました。

 表現形式上の分析では、同年代文に比べ、留学生文の文長は短く、教師文の文長を長くなるという特徴が見られた。また、留学生文では、他の文とは異なり、漢字名詞を易しい表現に置き換えたり、英語やイラスト、記号を使用するなどの配慮が見られ、「留学生文はより平易に、教師文はより丁寧に」という全体的傾向を読み取ることができました。

 内容構成上の分析に関して、教師文では、挨拶文や交流会の趣旨や意義を説明するような情報の追加が見られ、留学生文では、交流会の楽しさを伝えたり、校内地図を掲載したりするなどの情報の追加が見られ、また、難しい情報を省略するといった傾向も見られました。

 この論文では、学習者は表現形式面・内容構成面のいずれにおいても、相手に応じて自らの言語を調整していたといえることが分かりました。二回目の発表では、初めての調査の練習も兼ね、この論文中の調査をトレースする形で大学生を対象に調査をすることとしました。また、「書き分ける本人に、どのような点を意識して書き分けたかをアンケートする」という、フロアの皆さんからの助言も取り入れることにしました。

 

 二回目の発表では、実際に大学生を対象に調査した結果を分析し、発表を行ないました。書き分けの特徴に関しては、ほぼ中嶋(2003)での調査結果と類似した結果が出ました。「何を意識して書き分けを行なったのか」というアンケート調査では、同年代文・留学生文・教師文、それぞれに対して、興味深い意識を確認することができました。同年代文では、「気楽に」「フランクに」「キャッチ-に」など、あまり堅苦しくなりすぎないよう意識しているようでした。留学生文では、漢字の代わりに英語やひらがな、イラストや記号を用いたり、簡潔に書くことを心がけたという人が多数いました。最後に教師文では、敬語や挨拶文を積極的に取り入れたり、丁寧に書くことを心がけたという記述がありました。


 今回の発表を通して、今後も、相手に応じた書き分けの特徴を見ていく調査を継続して行いたいと考えました。相手の年齢(自分より上か下か、年配の人か子どもか等)によって、どのように書き分けるのかを中心に調査していきたいと考えています。次の調査に向けて、まずは先行研究や関連する文献を読んで、知識を得たいと思います。実際に調査をしてみて、アンケート調査の方法や形式、分析の方法など、様々な反省点も明らかになりました。また、フロアの皆さんにも、たくさんアドバイスをいただき助けていただきました。ありがとうございました。


 

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